偏食観劇屋

色々見たい、偏ったエンタメファン

じゃのめ

存在を知った去年から見たいと思っていた西瓜糖。

初見です。

すごかった!素晴らしかった!

いい脚本ってあるんだよ、やっぱり違うってわかるんだよ。素人にだって!

私がいつも見てるJ舞台やこの前の舞台とやっぱり比べちゃう…。

もちろん脚本が舞台の全てじゃないのはわかってて色々を楽しんでるからいいんだけどね。

言葉がいちいち刺さってくるし、ちゃんと耳に届く。言葉がきれい。

最初はこれを女性が書いてるのか・・・と思い、後半は女性の言葉だなって思った。

私は女脳とか男脳ってファンタジーは信じてないけど、社会での扱われ方で思考回路の性差が起こるとは思っていて。

そういう意味での女性の言葉だった。

いくつか印象的なところがあって。

最初はマサエをバラックから助け出した後のシーン。

お嬢は臭い臭いって嫌がるんだけど、ばあやが身体を拭くために被っていたものを外した瞬間、

「・・・ひどい。」って言った悲痛なひと言に涙腺決壊。

何がどう酷かったのか想像しきれたわけじゃないんだけど、私の中に流れる古い血が知ってるみたいな感覚。

それからお嬢が、自分に宇垣が妻子持ちだということを言わなかったのを怒った時。

マサエのひと言がすごく2人のその時までの立場を象徴していた。

「それは・・・あなたがそういうお仕事だから」

ちょっとイヤそうな顔をしてねえわかるでしょ?と言いたげな表情で。

この2人は本来は相容れない2人でいるはずだった。

裕福な家庭から震災で身を落として身体を売って男に庇護されて生きている娼婦。

男と肩を並べて生きたいと知識や教養のあることに誇りを持っている作家。

娼婦はきっと男と肩を並べたい女のことは理解できないし、作家は男に守られて生きてる女をバカにしている。

そんな2人がふいに共鳴し合うのがすごく印象的だった。

どんな立場の女も結局この時代では同じだったのだと多分2人は理解したんだろうな。

教養があっても金があっても。

ボロボロと泣いてしまったのは2人がテーブルに向かい合って「あなたは何故怒らないの?」と言い合うシーン。

男たちの身勝手に時代に流されるしかない女たちが切なくて・・・。

向かい合う相手には怒らないの?って言いながら自分は怒れない。

他人のことはよく見えてても、自分が怒ることなんて思いもよらない女たち。

そういう時代に生きているって、それが当然と思ってしまうんだろうなー。

疑問を持つことを知らないで生きてしまう切なさが痛いんだよ。。

この物語は女たちだけの話じゃなくて、男たちの物語でもあるんだけど、どうしても女たちの立場で見てしまう。

牢獄で過ごし震災を知らずに過ごした南光は、時代に取り残され今の文章が書けないで行き詰まってた。

それが偶然マサエの書いたバラック日記の続きを見つけてしまう。

マサエにとってはそれは誰かに見せるために書いていて、そして絶対に誰にも読まれたくないものだった。

マサエは這い上がるためにとことん落ちてみようと思い、男たちに身体を投げ出して日記を書き続けた。

それは作家としての強い思いがあったから。

追い込まれて追い込まれた先で書いたもので、愛する夫の隣りに「同士」として立てることを夢見たから。

でもその努力の途中で道を見失ってしまったマサエ。

それだけで充分打ちひしがれる思いをしてきたのに、南光はマサエを突き落とす。

「お前、女だろう?」

身を落として命を削って夫と肩を並べようとしていたマサエにえぐるような言葉を吐く男。

マサエはもしかしたらいつかバラック日記を世に出すつもりもあったのかもしれない。その覚悟ができた時に。

一生世に出せなくても、出せるかもしれない、出すこともできる、そういう可能性がマサエを支えていたのかも。

自分は男に守られて生きるような女じゃない、いつだって肩を並べられる可能性がある。

でもそれは自分の意思でするつもりだっただろうし、こんな風に服を剥ぎ取られるように晒させるつもりはなかったはず。

それを南光は読み、解説を付けて出版しようとしてる。

マサエは原稿を取り戻そうとするけど力で撥ね付けられてしまって奪えない・・・.

そしてそれを全て隣りの家から聞いているお嬢がね!泣けるんです。

知性と教養を誇りにしていた隣りの女が自分と同じように男たちに汚されて身を投げて生きてきたことを知る。

それが夫と肩を並べることかどうか、そんなことは理解できなくても、痛みと恥ずかしさと虚無感はわかる。

反射的にマサエを守ろうとするお嬢が痛々しくて。

お嬢は自分がその立場にいても何も気付かずにむしろ幸せなのだと思って生きてきた。

だけど隣りの女が、他人が同じ目に遭ってきたのを見て初めて自分の不幸に気付いてしまうんだよね。

その人の不幸に気付き、自分の不幸に気付く。

お嬢の行動は他人を思いやるとか同情なんかではなく、種を守るような本能的なものに思える。

熱い!って手を引っ込めるような感覚で原稿を奪わないと!って。

そこからのお嬢はもう何も考えられないバカな女じゃない。

宇垣に頼んで原稿を取り返し燃やし、落とした原稿の代わりに西条から政治家のスキャンダルを聞き出す。お嬢の最大の武器を使って。

マサエを励ましてこっちの部屋に呼び、スキャンダルをこっそり隠れて聞かせる。

自分の不幸を知った女は生き生きとしている。

西条とお嬢のSMプレイは滑稽で笑ってしまうんだけど、お嬢は必死なんだよね。

笑ってる人もいるのにその必死さに涙が止まらなくて。

やっとお嬢は「生きてる」んだろうなって感じた。

その一瞬のカタルシスの後、最後は暗転の中にヘリコプターの音と兵隊の足音が聞こえる。

やっと生きはじめた女たちの前に戦争がやってくる。。

もがいてもがいて抜け出した次の世界がいつも平和なわけじゃない。

それでも生きて行くんです。