偏食観劇屋

色々見たい、偏ったエンタメファン

迷子の時間 語る室2020

パンフレットを読んで、なぜ私がかめちゃんが舞台に現れた時、顔がかめちゃんな別人に見えたのかわかった。他の役を演じててもどこかいつも纏っている「背負ってる人=カメナシ」がすっかり抜けて、丸ごと役の人そのままだったからなんだね。でもそれは誰がやっても同じには見えない、かめちゃんの演じる彼なんだとも思う。

不思議な舞台を見てるな、と途中から思い始めた。物語の中にも出てくる夕霧の中のようなぼんやりとした感じ、摩訶不思議な感じ、そんなものを信じない私なのになんだか何か見えてしまうような。

正直こういう物語を自分が楽しめるとは思ってなかった。SFというのか、ファンタジーというのか。いわゆる神隠し的な事件という時点で一歩引いてしまうし、その神隠しも起こるのは一度ではない。もういいよ、となってもおかしくないのに何でかこの不思議なムードにどんどん引き込まれてしまって、昔見た夢を思い出したり、ふいに泣きたくなったり。(悲しいシーンでは決して、ない)

役者たちのフワフワと、それこそちょっとだけ地面から浮いているような浮遊感が心地よい。不思議と惹かれる作品だった。


ある日忽然と消えたバスの運転手と幼稚園児。その子供の母親と母親の弟、バスの運転手の弟の3人。怪しげな霊媒師、事件の日に現場にいた謎の青年、事件から5年後の今、ヒッチハイクでやってきた様子の変な兄妹。

物語は時代を行きつ戻りつして少しずつ謎が解き明かされていく構成になっている。

意地悪な見方をすれば、なんだよ、みんな関係者かよ!都合いいな!となりかねないのだけど、家族という関係が、そこに集まる必然を生み出していて、リアリティがある。都合よく集まったのでは決してなくて、彼らは皆来たくてやって来たのだ。

そしてまた上手いのが、彼らはそれに気付くことなくまたそれぞれに分かれて行ってしまう。唯一の他人である霊媒師は客席を味方につけて我らだけが知っていればいいと言う。

(かめちゃんがパンフレットで、あと一回やったら掴めそうってタイミングで次のシーンのお稽古に当たってしまうんですって、前川さんて。このストーリー自体もあれだけ気持ちよく伏線回収して種明かししてくれるのに当の本人達が知らないままっていう、なんというか何もかも明らかにしてしまうのって楽しいかな?と言われているような、それが前川さんらしさなのかなぁと思った)


またこの霊媒師が胡散臭いのに説得力のあるようなことをポツポツ言うからなんだか信じたくなってきてしまう。役者さんの力も大きいだろう。自分たちが過去を振り返るように、未来から自分たちを見てるのが幽霊なんだよなんてこの物語の中で言われると、なるほどーって思ってしまう。


個人的にガルシア役の役者さんがお初だけど上手くてビックリした。まずクリアな発声がとても心地よくて。で身体能力も高いもんだから。あんなふうに自分語りのシーンでアクロバットやダンスじみた動きで見せる演出ってのも面白いし、なんでか浮かずにしっくりハマっていた。


貫地谷ちゃんもオシナリくんも、熱演なのにこの浮遊感漂う空気感に不思議と馴染んでてとても良かった。

コミカルなシーンもちょこちょこあって、怒鳴りあったり泣いたり、感情も激しく動くのになんでかやっぱりフワフワとして視界が曖昧な空気が流れていた。

これ、映像で見ても面白くないだろうなーと個人的に思う。生の体験の醍醐味が詰まっているお芝居だと思った。


いい作品見せてくれてありがとう。