偏食観劇屋

色々見たい、偏ったエンタメファン

The Nether

見てきた。

前情報の印象と違って思わぬ展開を見せたお芝居だった。正直どこに気持ちを持って行ったらいいのかわからない作品。見て良かったと思うし、ひとことで言うならおもしろい作品だったと思う。

バーチャルの世界で少女売春斡旋をしているサイトがある、それを調査するサスペンス…と言う目線で見てたのだけど…ネタバレ→→→→

性的虐待にプラスしてなんと殺人までがフルコースだという衝撃設定なのだ。

だいたいにおいてその少女が気味が悪いほど明るく楽しげに自分のサツガイを示唆したり、服を脱いだりするのにゾッとするし、それを生身の人がやるっていうエグさ。

捜査員みっくんと潜入捜査官、ネザーというバーチャル世界を作った小児愛者と、その顧客、バーチャルの世界には少女アイリスがいる。ネザーの世界では小児愛者はパパと呼ばれその世界でアイリスをそばに置き商売(売春)をしている。その少女の後ろにも現実の世界で生きる大人がいることが示唆されていて、AIなどではない。スタッフなのかわからないがIDを持ってログインしている現実の誰か。

そいつが誰にしろ、自分が凌辱され殺されるのに平然とあるいは平然を装ってログインしてくるのが怖い。

顧客の1人、60を超えた教師はパパと特別な関係を築いている。初めはわからないがやがて少女はこの教師だと示唆される。だから特別なのだとわかる。

もっと後にその秘密は暴かれ、なぜ少女の役を引き受けたかを知ることになる。

潜入捜査官と思われる人物は、パパに自分の父親はネット廃人だと話す。それは現実世界でも指摘されることなのだけど。

初めは現実世界に顧客の教師がいることを知ってるのでこちらが教師なのでは?と思った。背が高く若く美しい男性。60を超えて家族に相手にされない、仕事もうまく行ってない彼のあこがれ…

そしてある時、潜入捜査官がモリス(みっくん)だと気付く教師。信じ切っていた教師は衝撃を受ける。ネザーの住人になってはダメだ、もう一度パパに会って話をしてくれ、本当にパパが君を愛しているか確認をしてくれと頼むモリス。

教師は、ネザーで売春をしてまでもそこにいたかった。現実はあまりに虚しいから。ずっとネザーにいるためにパパが提案したアイデアなのだ。でも実際にアイリスは前の別の少女の代わりで、もう何人もこの役をやってきたのだ。

でもアイリスはその歴代の中でも特別なのだと感じてる。一度だけパパが外(現実の世界)の話をしてくれたから。でもそれが結局教師を陥れることになる。親しくなりすぎてはいけなかったのだ。パパにとっては。ネザーで生きられなくなった教師は自殺を選ぶ。ネザー以外の世界では生きられなかった。危険で倫理に反する世界でも、そこだけが彼の生きられる世界だった。

モリスは最初の少女にこだわる。最初は現実にいた少女なのではないか、そのイメージを継承して何度でも、名前が変わっても凌辱され続ける最初の少女の傷を思うモリス。そのモリスは、60過ぎの、現実の世界を手放そうとしている男に向かって、あなたは私の初恋の人だと打ち明ける。ネザーの世界では

それはアイリスのことなのだけど、モリスのその台詞は性別や性的指向を超えたもののように思えた。アイリスとその教師を同時に愛しているような台詞。だから救いたかったように感じた。自殺をさせてしまったことに心底絶望したように見えた。

パパは。冒頭からずっと、自分は病気で、ネザーの世界で責任を負わない暴力を続けなければ現実の世界で犯罪を犯してしまうと言っていた。そのためにアイリスはいるけど愛ではない。現実を生きるための手段でしかない。アイリスを気に入って入るけれど、何代も前からアイリスのような子をめでて、そしてそれは取り替え可能だった。

ネザーの世界でアイリスにパパが秘密を打ち明けるシーンは、なんてことない自宅の庭に木を植えた話なのだけど、そのことをアイリスはとてもとても大事にして愛の証だと信じている。凌辱も暴力も殺人もない、その気配もない平和なシーン。

それを最後に現実の世界のシムズとドイルがもう一度演じる。少女のようにはしゃぐ教師。このシーンにたまらず涙が溢れた。売春なんてして、何度も殺されて、決して幸せと言い切れないネザーの世界なのに、ここにしか生きられない切なさか。愛を疑いなく信じていた教師のみじめさか。

このシーンの衝撃が凄すぎて、児童虐待のテーマが霞んでしまった。この作品はどこに焦点を当ててみればいいのかわからない、