偏食観劇屋

色々見たい、偏ったエンタメファン

ダディ

いろんな要素があって見応えのある舞台だった。よく知らずに見に行ったのだけど、毒親、人種、パトロンと若きアーティスト、シングルマザー、恋愛とは、結婚とは、秘めた想い。
わかりやすく強調されているのはやはり人種問題。ただこれ途中で台詞によってわかるのだけど、それは果たして良いことなのか悪いことなのかと考えてしまった。アメリカで上演されたなら登場人物が揃ったところですぐ気付くはずだから。でも日本人…東洋ルーツのキャストのみでやると見た目ではわからない。黒人というセリフがあって初めてわかり、さらに白人の友達と白人の金持ちだということも結構後々になってはっきりする。
察することができても視覚で一瞬にしてわかるのとは全然違う。わかってから見直したらもっと色んなところに理由を感じられたかもしれない。
でも逆に全く視覚では気付かないってことを逆手に取ることも出来るのかなぁなどと思った。この舞台でどう作用させてたのかはわからないけど、後から黒人だとわかった時にそれまでの用心深さや気遣いやはたまた嘲笑の意味がわかると言ったような。

優馬の役はまるでドリアングレイのようだった。自分が他人に好意を寄せるより早く深く他人から好意を持たれてしまう人。ゆっくり関係を築けない。そんな感じ。アーティストで若くて美しい。
アンドレはうんと年上でお金があって地位もあって、どうやってそれで対等に付き合えるのか?という人物。支配しているようには見えなかったけどたまに言い聞かせるような物言いはとても対等には思えない。

戸惑いながらも結婚まで行き着くのが、自分を醜い人間だと思い込まされて来た過去を感じる。ハッキリと自覚のない自己肯定の低さ。

かなり最初の方で、マックスは特別な好意を持ってるのかなと感じた。結婚式のスピーチでもやっぱりそんなふうに感じる。最初からちゃんとずっと注目していたら秘めきれない想いを見つけられただろうか?気になる。
年上の彼に夢中な彼女もまたやっぱり友情以上の想いがあったのでは?という気がした。家族と言ってたけどどうなんだろう?なんかあえての曖昧さも脚本や演出の意図かもしれないなんて。
そもそもフランクリン、ゲイでは未経験の未熟者みたいな自意識持ってて、なんとなくゲイだということも揺るぎないことのように言わないんだよね。グラデーションというけれど、まさにそんな感じの暫定ゲイという印象で、マックスもベラミーもそういうイマドキの子。

母親がなかなかにインパクトのある登場ばかりですごかった。プールからザッパーン!と現れるのよ。
そうそう。このセットがなかなか斬新で、モダンなお屋敷のコンクリートの壁の外にプールがあるというプールサイドのセットで。全面ガラス掃き出し窓は壁に引き込みなのでフルオープンにできる、中はダイニングかな?見るからに金持ちの家。ステージの真ん中にプールがあるから役者たちはプールに入らない限り客席の方には近づかないんだよね。
私はかなり前列だったのでプールがあるのも見えず上から見たらどうなってたんだろ?

ま、とにかく強烈な登場なので、母親やべえな!と反射的に思ったのだけど。
恐ろしく切ない存在だった……。
まず私はLes Blancsやスモールアイランドを思い出してしまった。黒人にとってキリスト教っていわば白人達に押し付けられた宗教だと思うんだよね。だから敬虔な黒人キリスト教徒に対してどうしても複雑な気持ちを持ってしまう。普段はそんなこと思わずにゴスペルとか映画とか舞台とか楽しんじゃうのだけど。
最初はその敬虔なキリスト教徒の立場からの毒親っぽさを振りまいてるんだけど、父親の話が出てくるあたりから様子が変わってくる。
命を授かった途端、母親も父親も世界が変わり最愛の人への思いを違えてしまう。その先の母親が放った父親への呪いの言葉は、父親もそして息子のフランクリンへも母親自身へも、呪いの言葉として降りかかり、フランクリンはずっと心の奥底に抱えて生きることになってしまう…。
徹底的で長きにわたる差別って、本当にその本人の誇りを奪ってしまうんだなと思った。差別される自分の属性を辛さ故に嫌ってしまう。
ああそう言えばキュレーター?のアレッシアの無邪気なマイナー評価も酷かった。事実マイノリティだろうけとそして武器になるだろうけどなんかきっつい。

母親の台詞にアンドレに向かって白人にはわからないでしょう、って前置きをして黒人の父親が逃げてしまうのは自分の子にこれから降りかかる暗い未来に耐えられないから(というような意味の)だ、というのがあるのだけど、それがまた辛い。BLMの頃に見た、黒人の両親がようやく会話のできるようになった我が子に、いかに清廉潔白に生きて身を守らなくちゃいけないかを諭す動画のことを思い出してしまった。大泣きしながら母親の言葉を聞いてる幼い子供のこと。
あとクリスマスにブラックベイビーがもてはやされるってやつはどういう話なのか気になる。すっかり忘れてたけど、スモールアイランドで黒人を差別しまくってる人が黒人の赤ちゃんのことはすごく可愛がるというシーンがあったんだよね。あれに繋がるような無責任な情のことを言ってるのかなと。

なんだかまとまりがないけど、いつまでも考えたくなる作品だった。